5.篠窯跡群について

篠窯跡群について

image1

図1 篠窯業生産遺跡群

篠地図 30万分の1

図2 亀岡市の位置

 

 

 

 

 

 

篠窯跡群(しの・ようせきぐん)は、焼き物を焼く窯跡以外に、さまざまな焼き物の生産にかかわる遺跡を含むため、正式には「篠窯業生産遺跡群」と呼ばれています(図1)。この篠窯跡群は、京都府京都市の西に位置する亀岡市(図2)にあり、その中心を占める亀岡盆地の南東部(篠町)の丘陵上に広がっています。
京都府中部はかつて丹波国(たんばのくに)と呼ばれていましたが、亀岡市内には丹波国府(地域ごとの役所、いまの県庁・府庁に当たるもの)が置かれ、丹波国の中心地でした。そのような丹波国府に近く、しかも峠を越えれば平安京へも程近い場所に位置するのが、この篠窯跡群です。 篠窯は、京都縦貫道と呼ばれている有料道路を建設するために、昭和51年から61年まで継続的に発掘調査などがおこなわれ、奈良時代から平安時代にかけての間、須恵器・緑釉陶器や瓦などを生産し続けてきたことが明らかになっています。窯の総数は100基をはるかに越えており、古代の日本、特に平安時代を代表する一大窯跡群であることになります。

image3

図3 緑釉陶器

篠窯では、奈良時代から平安時代の初めにかけて(8~9世紀)、山の斜面に土でトンネル状の窯、窖窯(あながま)を築いて、須恵器や緑釉陶器(図3)を焼いていました。奈良時代には、亀岡市内に置かれた丹波国府付近や国分寺(国ごとに置かれた寺)をはじめとして、丹波(京都府中部)向けの須恵器の生産をおこなっていたものと思われます。ところが、都が長岡京や平安京にうつると、都へ向けて大量に須恵器を供給するようになります。

student7image3

図4 須恵器

otani3

図5 大谷3号窯

kogatasankakuyou

図6 小型三角窯

 

作られていた須恵器(図4)の種類としては、椀(わん)・杯(つき)や皿(さら)などの食膳具、鉢(はち)・壺(つぼ)や甕(かめ)などがあります。篠産の須恵器は丹波国や平安京跡から大量に出土していますが、特に「篠鉢」と呼ばれる特徴的な形の鉢は全国各地でも少しずつ出土しています。その範囲は、北は青森県から南は宮崎県あたりまでと、広い範囲におよんでいます。それらのことからも、篠窯跡群は、この当時、日本最大の須恵器の産地であったことがわかります。
平安時代でも9世紀末頃には、須恵器に加えて、緑釉陶器の生産もおこなうようになりました。大阪大学が調査した、大谷3号窯もその時期の緑釉陶器を生産した窯です(図5)。10世紀になると、小型三角窯(図6)という特殊な種類の窯を使って、須恵器や緑釉陶器の生産もおこなうようになりました。小型三角窯は、一辺が1.5~2m程度と小型で、三角形の平面形をした平窯(ひらがま、床面がほぼ平らな窯)です。
篠窯は、日本でも数少ない緑釉陶器の生産地です。この篠で作られた緑釉陶器は、平安京にたくさん運ばれ、須恵器の篠鉢とともに、さらに全国へと供給されていくことになりました
さらに11世紀には、須恵器や緑釉陶器はほとんど生産されなくなり、王子瓦窯(三軒家南窯)などで、緑釉瓦をはじめとして瓦類(図7)を焼くようになりました。篠の瓦は、藤原道長が建てたことで有名な、京都の法成寺(ほうじょうじ)と呼ばれる大寺院でも使われました。しかし、平安時代末期の12世紀には、この瓦生産も中断してしまいました。

 

《参考文献》
江坂輝彌 1973 『古代史発掘2 縄文土器と貝塚』
上高津貝塚ふるさと歴史の広場 2004 『青と白への憧憬-施釉陶器がもたらされた場所-』
五島美術館 1974 『日本の三彩と緑釉』(図7)
昭文社 1983 『日本地図帳』(図1・図2)
(財)京都府埋蔵文化財調査研究センター 1984 『焼きもののふる里 篠窯跡群-発掘調査の記録から-』(図3・図4・図6)
潮見浩 1988 『図解 技術の考古学』
菱田哲郎 1996 『歴史発掘⑩ 須恵器の系譜』(図5)
愛知県陶磁資料館 1998 『開館20周年記念特別企画展 日本の三彩と緑釉-天平に咲いた華-』
歴史民俗博物館振興会 1998 『陶磁器の文化史』
青木美智男他12名 2004 『日本史B』 三省堂 正進社 『新中学総合歴史 地図/年表/資料』

<<前のページ 目次

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>